3-3 意匠権以外の権利


1.意匠権か?特許権か?

意匠権と特許権とは、それぞれの権利で保護される対象が異なります。意匠権は、これまでにも述べたように「物のデザイン」を保護するものです。これに対して、特許権は「技術的思想の創作」を保護,つまり「発明」を保護するものです。

持ちやすくて疲れにくい鉛筆は 特許か?意匠か?

例えば、「持ちやすくて疲れにくい鉛筆」を思いついたとしましょう。
鉛筆の一部を特殊な形状とすることで、指にフィットして滑りにくく持ちやすくなり、鉛筆の形状を工夫することで非常に書きやすくなり疲れにくくなるというものです。

この「持ちやすくて疲れにいくい鉛筆」は、その技術的な(学問的な、という意味ではありません)アイデアによって達成されるものです。
このような 技術的なアイデアを保護するのが特許権(実用新案権も同様)です。
技術的なアイデアですので、できあがった物の形状そのものが保護されるのではありませんが、そのような技術的なアイデアが含まれていれば(技術的アイデアを発揮するための形状であれば)、それによる形態を有する物は当然に保護されます。

一方、意匠権はこのような技術的なアイデアではなく、デザインを保護するものです。
そのデザインによる効果などは基本的には関係がありません。仮に、従来の鉛筆に、あえて持ちにくくなるような突起を設け、その突起が何の役に立たなくてもよいのです。もちろん需要者にとって魅力(例えば「形が変わっていて面白い」など)がなければ売れませんが。
したがって、意匠権では「持ちやすくて疲れにいくい鉛筆」は、その 外観上の1形態のみが保護 されるのです。

なお、保護対象が異なるため、「持ちやすくて疲れにいくい鉛筆」を 特許権と意匠権の両方で保護することも可能 です。特許権か?意匠権か?と迷ったら、一度専門家に相談することをお勧めいたします。

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2.著作権とは

著作権は、文芸、学術、美術、音楽などの創作物であって、著作者がその著作物を完成すると自動的に発生します。
たとえば、彫刻などを完成すると、その彫刻が著作物となり、彫刻を彫った者が著作者となります。
著作権とは、 この著作物に対する複製権や上演権などの複数の権利の総称をいいます。

★ 著作権があれば意匠権はいらない?

例えば、「置物」としての彫刻を完成した者は、著作者であるとともに、置物をデザインしたともいえます。著作権は、面倒な出願などしなくても発生し、拒絶されることもありません。

では、著作権があれば意匠権はいらないのでしょうか?

意匠権は、工業上利用可能であることが要件となっています。したがって、一品製作的な彫刻は、そもそも意匠権の範疇ではありません。問題は、例えばあなたが自らの著作物(例えば置物)を複数複製して販売するような場合です。

意匠権を取得する必要性

例えば、あなたが置物の販売を開始した後、Aさんが同じ形状の置物を販売したとします。
この場合、著作権によれば、Aさんがあなたの置物を複製したような場合に権利が及びます。要は、他人が、「あなたの置物を見て同じものを複製した」場合です。他人が、「これは私がデザインしたもので、偶然あなたの置物と似た形状になっただけです」と言われれば、権利行使が困難となります。むしろ、Aさんにも同じような著作権が発生することになります。 

意匠権を取得していれば、Aさんが何を言おうとも、原則、あなたのデザインと同じ形状のものを販売していれば、たとえ本当にAさんが独自にデザインしたとしても権利行使が可能です。(但し、意匠権を取得する前にAさんがすでにデザインを完成していた場合には、権利行使ができない場合があります。)
また、意匠権には「類似」という概念があります。あなたが取得した意匠権のデザイン内容と全く同一でなくても、類似したものまで権利行使が可能です。

このように、意匠権は強力な権利であるがゆえに、取得するために手続きを要するのです。なお、多くの企業は、「意匠権」に価値を認め、時にはその「意匠権」自体が高額で売買される場合もあります。

なお、著作権は大量生産品は保護対象ではありませんが、大量生産されたとしても「純粋美術と同視し得る程度に美的鑑賞の対象となる」と認められれば、例外的に保護が認められ、意匠権と著作権とで実質的に権利が重なる部分が生じます。

3.不正競争防止法とは

事業者間の公正な競争等を確保するために、「不正競争防止法」という法律があります。

この法律の中で、「他人の商品の形態を模倣した商品」の譲渡等を行うと、不正競争に該当すると規定されています(不正競争防止法2条1項3号。)要は、他人の商品をまねすることを禁じるものです。

不正競争防止法では、この他にも不正競争と定義されるものがありますが、本ホームページにおいては、特に断りのない限り、本号の行為を「不正競争」として述べます。

★ 不正競争防止法でデザインを保護

たとえば、あなたがデザインしたアクセサリーを他人が真似して販売すれば、この不正競争に該当することとなります。このように、意匠権以外でも「物の形態」を保護する道があります。 

しかし、不正競争防止法があるから意匠権は不要、というわけではありません。
不正競争であると認められるためには、以下の要件を満たす必要があるのです。 

1.日本国内で最初に販売されてから3年以内のものであること
2.「模倣」であること
(または「模倣」であることを知っていること) 

不正競争防止法では、国内での最初の販売から3年を経過すると、「物の形態の模倣」に対しては保護対象ではなくなります。これに対し意匠権を取得すれば、最長25年の保護期間 が認められます。 

また、不正競争であると認められるには「模倣」であることが必要です。「模倣」とは、他人の商品形態を見て、これと実質的に同一の形態の商品を作ることをいいます。したがって、著作権と同様、偶然の一致のような場合は範疇ではありません。
これに対して意匠権は、登録後に偶然同じデザインが他人によってなされたとしても、権利行使が可能です。

なお、不正競争防止法では「商品」であるのに対し、意匠法では「物品」が対象となっています。
たとえば、複数のタオル等が見栄え良く箱詰めされた商品「タオルセット」は、不正競争防止法での対象ではありますが、意匠法では、個々の「タオル」のみが対象となります。