1-1 意匠とは
1.意匠って何?
商品を購入する時に、商品の性能や品質が同じであれば、好みのデザイン(形や模様、さらには色などの組み合わせ)で商品を選ぶことがあると思います。
たとえば、A社製の自動車とB社製の自動車の購入を検討している場合に、乗り心地や燃費などの性能がほとんど同じであれば、最後は自動車の「かっこよさ」で 選ぶこともあるでしょう。
時には、多少値段が高くても、または多少性能が劣っていても、デザインの良さに惹かれて商品を選ぶこともあるかもしれません。
このような物品のデザインを『意匠』と言います。 もう少し正確に言うと、物品(または物品の1部分)の形態が意匠です。
ところで、「デザイン」というと、プロのデザイナーが創作したものを思い浮かべるかもしれません。
しかし、ここでいう意匠はこれに限られません。 「そのデザインが美しいかどうか」と「意匠であるかどうか」とは関係がないのです。
2.デザインや物の形が保護されるの?
新しいデザイン、すなわち、新しい物の形態(形や模様など)を思いついた場合、その新しいデザインは大きな商品価値を生み出す場合があります。しかし、物のデザインというのは、そのデザインを見た他人によって、多くの場合は容易に模倣されてしまうものです。
このように、新しいデザインを思いつき、商品化を検討している場合には、『意匠権』を取得することをお勧めします。意匠権を取得すれば、他人によって、その物の形態が模倣されることを防ぐことができ、その デザイン(意匠)を保護 することができます。
3.なぜ意匠権が必要なの?
商品のデザインは、商品購入における大きなファクターとなり得るものです。したがって、苦労して創作したデザインが、後から他人によって勝手にまねされてしまうと、自分の商品の売り上げは減少してしまうかもしれません。また、せっかく創作した商品のデザインが市場にあふれかえることで、デザインの価値が著しく低下するかもしれません。
このような状態を許せば、新しいデザインを創作しようとする意欲はそがれてしまうでしょう。そこで、一定の条件を満たす意匠については、意匠法という法律によって、法的に保護することとしました。
すなわち、意匠法は、意匠を創作した者に、意匠権という独占排他的な権利(自分だけがその意匠を実施することができ、 他人の実施を禁止することができる権利)を与えることとしたのです。
4.意匠権を取得すると何が良いの?
意匠権を得る必要性
意匠権を得るためには、意匠登録出願を行わなければなりません。しかし、意匠登録出願には費用や時間がかかります。また、出願した意匠登録出願がすべて登録されて意匠権が付与されるわけではなく、「拒絶」されることもあります。(意匠登録出願の拒絶理由については後述します)
では、なぜそこまでして意匠権を得る必要があるのでしょうか?
それは「自分の商品のコピー品が安く売られている!」ということが起こらないようにするためです。
通常、商品のデザインの創出には多くの時間とコストが費やされると思います。あるいは、偶然に奇抜な発想に基づくデザインを思いつくことがあるかもしれません。
しかし、このような商品をそのまま販売してしまいますと、何の苦労もなく全く同じ形の商品が真似されてしまうかもしれません。新しい形状を考えるよりも、 目の前にある商品と同じ形状のものを作ることの方が、多くの場合極めて容易であるためです。その結果は前述したとおりです。
意匠権はこのような「ものまね」を法的に排除することができます。 あるいは、他人に自分の意匠権に基づいて実施権(意匠権を持っている者から「使ってもいいですよ」という許可をもらって実施する権利)を設定すれば、自分は物を作らなくても実施料を得ることもできるのです。
意匠権を得るメリット
もう一つ意匠権を得るメリット(メリットというよりも活用方法)があります。それは、特許で権利を得ることができない場合に、その商品の形態だけでも権利を取得したい場合です。
特許権は意匠権とは保護対象が異なるものです。特許権は物の形態ではなく、具現化された思想(いわゆる発明)を保護するものです。このため、新しいものを発明した場合には、特許権を得ることが望まれます。しかし、特許権を得るためにその発明が高度であることが要求されます。
したがって、その商品に込められたアイデアそのものは高度ではない場合であっても、意匠権によって、デザインとしての権利を得ることができるのです。
なお、特許権と意匠権との違いは、別の項でもう少し詳しく説明します。
5.思いがけず爆発的に売れた!
「商品を販売したら思いがけず爆発的に売れた!」という場合があります。
しかし、事前に特許権などを取得していなければ、ものまねされるのも時間の問題です。
このような場合でも、意匠権であれば、商品保護の道があるのです。
通常、せっかくの発明品も、一度でも販売されて世の中に知られてしまうと、それ以降、特許出願を行っても特許権を得ることができません。
たとえば、「持ちやすくて疲れにいくい鉛筆」を開発して売り出したところ爆発的に売れた、という場合があったとしましょう。
この場合、特許出願を行っていなければ、同様の商品が簡単に他人にまねされてしまいます。
しかし、すでに販売をしているため、その後に特許出願を行うことはできません。
このような場合、本来は特許権を得ておくべきであったのですが、少なくても 商品デザイン(例えば特殊な形状の鉛筆)として、販売から6月以内に限って、意匠権を事後的に得ることができます。
詳細は割愛しますが、特許法とは異なり、意匠法では「販売」後であっても意匠権を得る道が残されているのです。
ただし、これにも限界がありますので、できるだけ適切な時期に適切な出願(特許出願や意匠登録出願など)をしておくことが望まれます。